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縦に長くてうざいよ注意。
まさか電車で誰かと出会うことがあるだなんて思わなかった。 電車はただの交通機関だ。多くの人がシートに座るなり、突っ立ったりしているうちに目的地に運ばれている。だからこそ、みんなお互い誰も目を合わすことなく電車に揺られている。他人なんて誰も気にかけない。だから何も期待していなかった。 でも、ある日優しい人をみた。 その人はシートに座っていた。電車の中はシートが埋まる程度に混み合っていて、何人かは立ったまま窓の外を見ていた。途中駅について、人々が出たり入ったりしていた。 そんな中、おじいさんがヨボヨボと電車の中に入ってきた。シート全部埋まっている。おじいさんは別にシートに座る気はないのか、扉のそばの手すりに近寄っていった。そしたら、音もなくシートに座っているスーツを着た若い男が移動をした。そうしたらおじいさんは、何事もなかったようにシートに座った。おじいさんはぼけているのか、若い男に対して何の言葉もなくジーっとしていた。 私はそんな感謝のない親切に心を奪われてしまった。その若い男のことが気になって仕方なくなった。若い男は、次の駅から入ってきた人ゴミ紛れていつの間にかいなくなった。 それから、電車が私と他人とあの若い男の乗り物になった。 私は、当たり前だけど電車にいつも乗っているわけではなかった。行き帰りに使うだけだ。なので、またあの若い男に会うのは奇跡に限りなく近いものになるだろう。それでも、それでも私は期待してしまった。あの若い不思議な男に会えないのだろうか。さっぱりわからなかった。でも、私には確信があった。あの若い男は、きっと私に姿を見せてくれるだろう。 次の日から、予想通り彼を良く見かけるようになった。もしかしたら毎日のように電車にいたのかもしれない。それを考えたときに私は少し後悔した。私が気づかなかっただけで、この電車にはあの優しい男がずっといたかもしれないなんて。 時間さえあえば、毎日のように彼と会えることに気づいた私はその日から世界が変わったように楽しくなった。私が電車にいるといつも探してしまう。会えない日はあるけれど、それでも待つという行為で満足できた。私は彼の存在に感謝した。 そして電車で毎日のように彼を注視するための生活を送って一ヶ月がすぎた。 私は夜8時ごろの電車に乗っていた。そうしたら、偶然彼に会うことができた。梅雨の始まりから真夏に世界が変化しても、彼は同じスーツを着ている。私は、こっそりと彼に近づいた。彼はまた黙ってシートに座っていた。透き通りそうな印象を持って、自分の靴をみるようにうつむいていた。それはいつものことなのだけど、今回は少し様子が違った。彼はどうやら体調が悪いようだ。私は彼でも体調が悪くなるのだとびっくりした。その様子はとても弱々しくて、自分と彼は違う世界の住人なのだとはっきりと分かった。 彼のこと心配になった。ずっと苦しそうな顔をしている。息を不規則に吐いていて、全く落ち着きがない。私は彼に何があったのか不安になった。それで私は、彼のために何かしてあげたいと、初めて思った。彼にはとても感謝している外の景色を眺めるだけのつまらない毎日を楽しくしてくれたのだ。でもどうしたらいいのだろうか。 そうだ、彼の家に行って世話を焼こう。ストーカーと思われて嫌われるかもしれない。最悪、窃盗犯として通報されて軽蔑されるかもしれない。でも、そのときの私にはそんな心配さえどうでもよくなった。彼のためにできることが思い浮かんだのだ。私は、彼のためにならどんなことさえもできるのだと感じた。 電車が駅に着き、彼は立ち上がった。いつも気がついたらいなくなっているので、私はできる限り自然に彼の後ろをついていった。調子が悪く、歩く速度が遅い彼を追い越さないように距離をとり、不慣れな駅の構内をゆっくり歩いた。多くの人に紛れている彼を見失わないよう集中した。靴の音さえ聞き逃さないように、慎重に歩いた。 駅を出て、彼は繁華街から離れていった。途中暗い公園を抜けて、周りはどんどん電灯とマンションしかない場所になっていた。電車の中では低かった気温が、湿度とともに上がっていた。蝉は叫び、我は光に集まっていた。 10分ほど歩いていたのだろうか。彼はマンションの中に入っていった。私にはもっとかかったいたようにも感じられた。人の後をつけるというのがこんなにも体力をつかうものだとは思ってもみなかった。多分彼は私のことに気づいていないのだろう。体力が落ちて、注意力がなくなっているようだ。 私は彼の後ろにくっつくようにして暗証番号式のエントランスをくぐった。彼は入り口近くの郵便受けに向かった。私は当たり前のように郵便受けがないので、できるだけゆっくりとエレベーターへ向かった。もし彼が1階や2階に住んでいたら、ここまで来て見失ってしまうことになるので、エレベーターを1階へ呼び出している間、真剣に神様に祈った。そうしたら彼はエレベーターの前に来てくれた。エレベーターに2人で乗り込み、彼が押した階数の1つ下を押した。彼は一緒にエレベーターに乗った私が1つ下の階だったのにびっくりしたようだった。 彼の住んでいる階の1つ下につき、私は降りた。そして、急いで階段を探し、音がでないように慎重に階段を登った。彼はすでにエレベーターを降りていて、自分の部屋に向かっていた。彼の少し早い足音を追いかけて、私は彼が部屋のロックを開けているのを見つけた。私はできる限り静かに彼の後ろに位置取り、部屋のドアが開くのを待った。彼の部屋の青白いドアが大きく開いて、彼は部屋に入ろうとした。そして私も、こっそりと彼の部屋の中に入った。 部屋はワンルームで、靴置き場でしかない玄関を通ったらすぐにリビングが見えた。リビングにはテーブルとベッドと家電製品しかなかった。すごく質素な部屋だった。地面は雑誌や服などの日用品で埋め尽くされていて、お世辞にもきれいとはいえなかった。夏の日差しがあたった締め切られた部屋の名残を夜になった今でも残していて、正直少し扱った。けれど、そんなことは気にしていられなかった。彼の体調も心配だし、実は私は男性の部屋に上がったことがなかったので、見つからないように入るということにも緊張したが、1人暮らしの男性の部屋に上がりこむことに対しても緊張していたのだ。けれどそんな心配もよそに、彼は部屋の明かりつけてすぐにベッドに倒れこんだ。どうやらよっぽど体力を消耗していたらしい。寝息を立てていた。私は彼の世話をしてあげるためにこの部屋にきたのだから、これはチャンスなのだと思った。 私は部屋を見渡した。狭いながらもちゃんとした冷蔵庫もあるし、キッチンで料理もできそうだった。なので、まずは彼のために何かを作っておくことにした。現在の時間は夜9時前。夕食は食べてきているのだろうから、何か夜食になるものを作ることにした。冷蔵庫の中を覗いて、何を作るか決める。冷蔵室にはお酒や飲み物くらいしか入っていなくて、冷凍室にたくさんの冷凍食品が入っていた。材料はないけれど料理はあった。どうやら私の出番はなさそうだった。私はそんなに料理がうまいわけではなかったので、少しだけほっとした。しかし同時に、どうしようと迷ってしまった。せっかくここまで来たのに何もできないなんて。悔しかった。 なので少しでも何かできることを探した結果、部屋の掃除をすることにした。彼が何を大切にしているのかわからないので、空になったお菓子の袋とか、そういったものを処分した。そして、部屋に散らばっているものをまとめたり、整理した。自分でいうのもなんだが、結構片付いたと思う。寝ている彼を起さないように音も立てていない。あとせっかくなのでついでに、保険証を探して彼の名前を確認した。彼の名前は修二のようだ。 私は嬉しくなって一度だけつぶやいてみた。そうしたら、彼が少しだけピクッと動いた。もしかしたら起してしまったのかもしれないと不安になって、私は彼の寝顔を覗き込んだ。彼は眠っていた。熱でもあるのか、うなされているような顔をしていた。私はすることがなくなってしまったので、彼の寝顔を見つめていた。心配でたまらない。1人暮らしで病気になるなんて、なんて危険なことなんだろう。もし重症でも誰も助けてくれないし、下手したら死んでもすぐ見つけてもらえないかもしれない。それは恐ろしいことだ。何とかしてあげたい。私は彼のことについて真剣に考えた。あることが浮かんだが、そこまではできないとかき消したりしていた。 そんな想像の世界をグルグルと回していたら、突然外でパトカーのサイレンが鳴り響いた。私はその音にびっくりして、瞬間的に我に返った。無断で侵入していることを思い出したのだ。私は急いで彼の部屋を出た。帰り際にテーブルを風邪薬の薬を置いておいた。彼の熱が引いて、元気になってくれたらいいのに。私はそう願いながら青白いドアを通って外に出た。 外に出たら、マンションから近い道路でパトカーが車を止めて何か話していた。私は関係なかったのだと心からほっとした。 来た道を戻る間、私はさっき部屋の中で浮かんだことを繰り返し考えていた。彼に楽なってもらいたい。彼の力になってあげたい。けれど、私がそこまでする道理もないし、そんなこと、彼にとってはただの迷惑ではないのだろうか。一度部屋に押し入った人間が言うのもおかしいなことだけど、彼には幸せになってもらいたい。でも、私がしていいことだとも思えない。どうしたらいいのだろうか。コンクリートと車の音、公園の砂と木々の揺れる音。色々な音を聞きながら、私は夜の光の中で答えを探した。そして、駅に着くちょっと前に私は決心した。私は彼を、修二を幸せにするためにあのことをしようと。 それから三日後。私は修二に会うことができなかった。偶然に会えなかったのか、いつもの時間からずれた電車に修二が乗ったからなのか。それは分からなかった。もう一度彼の部屋に行こうと思ったことは何度かあったが、もしも修二が寝込んで部屋にいたとしても、きっと彼は私を通してくれないだろう。知り合いでも恋人でもないのだから、門前払いをくらうことは確実だ。私はそれを考えると少しだけ寂しくなった。心が痛み、身体が固まった。私は修二の名前を知っているけれど、修二は私の名前はおろか、存在さえ知らないかもしれないのだ。一方通行過ぎる。でもそれは当たり前のことだ。私は修二に自己紹介などしていないのだ。そう、当たり前なのだ。私だって、修二の名前を知ったのは保険証からだったから。 当たり前とは、なんて残酷なのだろうか。 でもこの当たり前も、今日こそなんとかしてみせる。ここ2日間は、修二がいつもの時間に電車に乗ることを想定して動いていたから会えなかったのだろう。もしかしたら修二は仕事を休んでいたからかもしれないけど、ただ乗車時間がずれただけだったのかもしれない。だから今日私は、ホームで修二を待つことにした。3日目だし休んでいてもそろそろ会社に出てくるだろうし、治っているかもしれないし、多分今日こそは会社に出るだろう。それでも、体調が完治していなくて、いつもの時間と少し送れる可能性だってある。だからこそ、今日はホームで待つことにした。修二は大丈夫なのだろうか。私は駅のホームで待ち続けた。修二が電車に乗る場所はいつも一緒だった。私はただ待てばいい。待っていたら修二に会えるのだ。 私はまた神様に祈った。神様、どうか元気な修二に会わせて下さいと。 ふと構内の時計をみた。いつも修二が乗るはずの電車の時間の1つ前の電車がホームにくるくらいの時間だった。私はもう少しなのかな?と考えながら、近くの階段を見上げた。そしたら、そこに修二はいた。 修二は、カツ、カツ、カツと元気なくゆっくりと階段を下りていた。それを見て私の気持ち派は固まった。あのことを実行しよう。彼を私の家に連れて行って、修二を元気にしよう。私は修二の苦しそうな寝顔を見ていたあの日、修二の笑顔を見てみたいと思ったのだ。他人への優しさを無視されて感謝さえされない修二を、私は幸せにするんだ。 修二は階段を下りて、ホームの黄色い線の上で立ち止まった。 私は修二の音を立てないように修二の後ろに立って修二を眺めた。 修二、修二、修二はかっこいいんだろう。名前だってかっこいい。寂しいときでも心の中で彼の名前を繰り返していたら幸せな気分になれる。この幸せを彼にも分けてあげたい。そうだ、まずはこのことを修二に教えてあげよう。好きな人の名前を繰り返すと、幸せになれるのだ。 「修二修二修二修二修二修二修二修二修二」 修二は振り向かない。 「修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二」 やっぱり修二は振り向かない。どうしてなんだろう。あっそうか。そんなの当たり前のことだった。私は近づいて、修二の耳元に口を持っていった。 「私の名前はなつみっていうの。私がこれから修二を幸せにしてあげるね」 名前も知らない人なんて普通相手にしないか。でも私は修二に名前を伝えた。これならきっと修二は振り向いてくれる、と思ったのに彼は振り向かない。そんなにすぐに振り向くわけではないかと思って少しだけ待ってみた。それでも彼は振り向かない。体調が悪いのか、少し震えているだけだった。 「修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二修二、好きな人の名前を何度も心の中でつぶやくと幸せになれるんだよ」 私は修二を呼んだ。考えてみたら、声を出して彼に呼びかけるのは今日が始めてだった。なのに、少しも幸せな気分になれなかった。多分彼が振り向いてくれないからだと思う。ちょっと残念だった。でも平気。私は修二に幸せになってほしいのだから。 「私は、修二に幸せになって欲しいの。それで、私なりにどうしたらいいのか考えたの。それで、その結果、修二は私と一緒に暮らすことが幸せなのだって思ったの。私は修二がどんなに優しい人間か知っているし、修二の優しさを世間が感謝していないのも薄々分かっている。私なら、そんな無礼なことを修二にしない。私なら、きっと修二を幸せにできる」 修二の震えはさっきより大きくなった。感動して震えているのだろうか。後ろにいる私には分からなかった。私が感想も少なく修二の反応を見ていると、電車の轟音が近づいてきた。もう時間なのだと分かった。 「修二、電車が来たよ。これから一緒に毎日幸せな生活を送ろうね。」 電車の音にかき消されないよう大きな声で修二に話しかけた。そして修二を後ろから抱きしめて、心からの気持ちを伝えた。 「愛してるよ修二」 私は修二から離れて、修二の背中を思いっきり押した。
by swingpop
| 2006-07-31 05:30
| 日常
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